バルティヤマ市場から、歩いてすぐのところにあるのがカラマヤ地区(Kalamaja)。
以前は工場や倉庫の多いエリアだったこの場所が、
いまでは再開発によって少しずつ “タリンの現代らしさ” をまとい始めています。
街を歩いて、まず感じたのは「におい」だった

市場の喧騒から数分、歩くたびに変わっていく空気の中で、
ふと足を止めたくなるような “湿った木のにおい” が鼻をかすめます。

それは、古い木造住宅の並ぶ通りに足を踏み入れたとき。
きれいに整備されたというより、時間をかけて“使い込まれてきた街” に足を踏み入れたような感覚でした。
カフェもギャラリーもあるのに、生活のにおいがちゃんと残っている

このエリアにはおしゃれなカフェやショップも点在しているけれど、
それが主張しすぎることはありません。
むしろ、道を歩いているときに気づくのは、軒先の植木や物干し、木のドアのきしむ音。
「人が暮らしている街だ」と、視覚よりも先に感覚でわかるのです。

整いすぎていないからこそ、
“観光地”ではなく“暮らしの風景”として心に入ってくる──
そんな場所でした。
再開発が進むなかに、過去と現在が自然に並んでいる

- レンガ造りの元工場をリノベーションした集合住宅
- クリーンなラインの新築と、錆びたトタン屋根の旧宅
- 木造家屋の向こうにそびえる現代的なガラスのオフィスビル
そのすべてが、違和感なく同じ通りに並んでいます。
この街の「更新」は、“塗り替え”ではなく“積み重ね”なんだと気づかされました。

ただ通り過ぎるだけの場所じゃなくて、
「歩くことで、生活の時間を感じ取れるエリア」──それがカラマヤでした。

近代的な都市機能と過去の痕跡が重なる、
タリンのビジネス街〜再開発エリアに足を延ばします。
タリンの現代と過去が重なる場所へ|“おしゃれ”だけでは語れない街の表情

カラマヤの住宅街を抜け、さらに歩いていくと、
そこにはまるで違う街に来たような空気が広がっていました。
無機質で広い道路、響く車の音とトラムのきしみ

カラマヤの静かな通りからほんの数分。
道幅が一気に広がり、コンクリートとガラスに囲まれた空間に出ました。
- 直線的で無機質な集合住宅
- 焦げ茶のパネルで覆われた、どこか古びたビル
- 空を遮るようにそびえるガラスの高層オフィス
その合間を走り抜けるのは、ややレトロなトラムと、ビジネスマンを乗せた車列。
タリンの中心部、ビジネス街に足を踏み入れた瞬間でした。
ソ連時代の名残と、いまの再開発が混ざり合う

このエリアには、無骨で質素なソ連時代の建築と、
ガラスと鉄で組まれた未来志向の新築ビルが共存しています。
- 並ぶ団地のようなアパート群
- 寄棟のような屋根が乗った古い商業ビル
- その隣に、角度のついた屋根をもつ斬新なデザインの建築

どこかに「新旧の境界線」があるわけじゃない。
でも、確かにそこに“層”がありました。
洗練されているのに、どこか素朴な“現代のタリン”

このエリアに漂っていたのは、
パリやベルリンのような華やかさとは少し違う、
素朴だけど誠実に「今を作っている」空気でした。

高層ビルに囲まれていても、
この街の本質は「歴史ある街をどう“繋げるか”」という問いに
向き合い続けているところにある気がします。
それは“変わらない街”ではなく、
“変わりながら、すこしずつ積み上げている街”。
食べることで見えてきた、タリンという街の“文化の土台”。
旧市街で出会った、素朴で不思議なローカル料理をご紹介します。
味で知るエストニア|タリン旧市街で出会った5つのローカルフード
歴史を歩き、暮らしの輪郭を見てきたあと、
最後に体験したかったのが「この土地の味」でした。
情報が少なくて、正直どんな料理が出てくるのかまったく想像がつかなかったけれど、
食べてみたら、どれも不思議な優しさがありました。
① Mulgipuder(ムルギプデル)
ジャガイモとオート麦をベースにした、もったりしたおかゆのような料理。
見た目は地味だけど、ベーコンの塩気とサワークリームの酸味が合わさって、
「あ、これはどこかで食べたことがある味かもしれない」と思わせる一皿。
② Kamaケーキ(カマコーギ)
エストニア独自の穀物“カマ”を使ったデザート。
見た目はチーズケーキ風。でも口に入れると、
酸味が立っていて、どこか粉っぽくて、「これは一体…?」となるような不思議な味。
それでも、異国の風土が詰まったような存在感がありました。
③ 自家製ライ麦パンと塩漬けの魚
タリンでは、どのカフェでもしっかりしたライ麦パンが出てきます。
そのまま食べても、バターを塗っても、地元の塩魚をのせても合う。
パンも魚も「しっかりしょっぱい」けれど、それがかえって胃に沁みる。
街の空気と同じように、味もまた“はっきりしているのに、どこか控えめ” という印象でした。
④ Pirukad(ピルカッド)
中身を詰めたパイ。日本でいう“総菜パン”に近い存在。
ミート・チーズ・鮭など具材はいろいろ。
素朴な見た目なのに、ひと口目でちゃんとおいしくて、
「地元の人は、これを日常的に買ってるんだろうな」と思える安心感。
⑤ エストニアのクラフトビールとマジパン
最後は飲み物とおやつ。
クラフトビールは、ポフヤラ(Põhjala)という地元ブルワリーのポーターが印象的で、
コーヒーやチェリーの風味が複雑に重なっている。
そして、意外にもエストニアはマジパンの老舗もある。
ねっとりと甘くて、ナッツと砂糖の混ざったような、素朴な菓子。
どれも見た目は飾らず、派手でもない。
でも、“その土地で食べるからこそ意味がある味”だったと思います。
静かな時間の中で五感に残った、旅の余韻と記憶の話を──
タリンの旅の最後に感じた「時間の厚み」
タリンという旅の記憶|“写真じゃ残らないもの”が残った理由
旅の記録をあとから振り返っても、
タリンで見た風景は、どれも静かすぎて写真ではあまり印象に残っていません。
でも──
- 小さな路地で誰かが窓を拭いていた姿
- 重たい扉をゆっくり閉めたあとの木のきしみ音
- サクッと焼けたパンの香り
- 濃い曇り空の下で、ぼんやり光る赤い屋根の反射
- 馬車が土を鳴らして進む音
- 誰もいないカフェの前を通った早朝の静けさ
それらは全部、「風景」ではなく「感覚」として残っていたんです。
ガイドブックには書かれていない、
写真にも映らない、
でも、旅が終わって時間が経ったあとで
ふと蘇ってくるような記憶。
それが、タリンという街にあったものかもしれません。
🌿「旧市街の石畳を歩いて、そのまま静かなカフェで朝のコーヒーを──」
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行ってよかった」というより、「行けてよかった」
この街を「おすすめです」とは簡単には言えないかもしれません。
でも、「行ってよかった」というより、
「行けてよかった」と思える場所だったことは、はっきりしています。
誰かの旅ではなく、
“自分の旅”として静かに心に残る街。
そういう場所を、今の自分の感覚で選びたいとき──
タリンは、きっとその候補になれる街です。
🌿「暮らすように泊まるって、こういう街にこそ似合うのかもしれない──」
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— ただ歩いていただけなのに、不思議と印象に残る時間だった —
→ エストニア・タリンの旅であとから気づいた|写真じゃ伝わらないヨーロッパの“有名じゃない場所”を選ぶ意味
— ☕タリンという街の空気を、実際に歩いて、泊まって感じた記録 —
→ エストニア・タリン旧市街で過ごす静かな時間と、旅のあとに残った記憶