人気バンドのライブにて
まさか、こんなことを考える時間になる
とは思わなかった。
5大ドーム・ライブツアー
ある年の春に友人と、人気バンドの
5大ドーム・ライブツアーに行った。
友人が、このバンドの“ 曲 ”の大ファンだ。
ライブの醍醐味は豪華な演出と共に身近に、
それも大迫力の音響で、大好きな曲を
生で聴ける。
そして曲と曲の合間に入るアーティストの
MCも楽しみの1つだ。
友人とわたしは、このバンドのライブに
今回初めて行った。
最初の曲がはじまると、友人はすでに
ハイテンション!
わたしは「あ、聴いたことある」ぐらいの
テンションだ。
1曲目が終わり、照明が落された。
「今日は来てくれアリガトーーー!」
という声と共に再び照明が、
ステージ中央を照す。
売り方の事例 ① バンドメンバー
最初のMCのはじまりだ。
「毎週末ライブをこなしていて、ヘトヘトだ」
「スケジュールがタイトすぎる」
「他のアーティストには、とてもオススメ
できない」
という内容を冗談ぽく話し、
会場が少しなごんだ。
その後も2、3曲終えるごとにMCが入った。
「ようやくここまで来れた」
「ドームに人を集められるまでになった」
「曲は、メンバーでこんなふうに作ってきた」
と、すべてのMCのうち、9割が
彼らの苦労ばなしだ。
それも、だんだん真剣になってくる。
そして、彼のしゃべり出しは必ず
「オレたち」で、はじまる。
「オレたちが……」
「オレたちは……」
「オレたちにとって……」と。
その場にいたわたしは、だんだん疑問が
湧いてきた。
彼らの曲で人気のあるジャンルは、
応援ソングや恋愛ソングだ。
会場を見渡しても、女性客の方が圧倒的に多い。
今この場に集まっている人たちは、
彼らの “ 曲 ” に少なくとも何かしらの
影響を受けて集まった人たちだ。
たとえば、
「歌の歌詞と同じ経験をした」
「ある出来事があったときに、丁度この曲が
流れていた」
「歌の歌詞に励まされた」
「好きなドラマの主題歌だった」
など、ほとんどの場合、自分の
経験にもとづいている。
だから、共感を得られる。
彼らの“ 生き様 ”やこれまでの“ いきさつ ”に
影響を受け、憧れを抱いてチケットを
買った、という人が果たしてこの会場に
何人いるだろうか?
チケット予約の募集内容を言い換えてみると、こうなる ↓ ↓ ↓
彼らの “ 曲 ” に影響を受けて
同じような感情を抱き、
同じような経験をした多くの人たちと、
同じ空間で、
同じ時間を
共有しませんか?
日時は◯月◯日です。
場所は◯◯ドームをおさえました!
みんなで◯◯ドームをシェアしましょ。
ご本人たちのスケジュールも
おさえちゃいました。
『みんなのために生演奏しちゃいますッ!』
とのことです。
ご本人たちとの“ 時間 ”も みんなで
シェアしましょ。
感動的な時間、過ごせますよ!
その入場券ココに……置いておきますね。
そして、この入場券の争奪戦を
わたしたちが繰り広げる。
ってことですよね。
このバンドの場合、売りはあくまでも
共感を生んだ “ 曲 ” 。
客は、チケットそのものではなく、その先の
同じような経験や感情を抱いた多くの人たちと、
同じ空間で、同じ曲を聴きながら、同じ時間を
共有するために、お金を払ってココにいる。
地方公演なので、客の大半は地元の人たち。
たとえば、『◯◯で食事した』とか
『◯◯に行ってみたい』とか
地元のことを話題にしてくれると
くだらない内容でも聴く側は親近感を覚えて また少し、好きになったりもする。
と、わたしはMCを聴きながらライブ中、
ずっとこんなことを考えていた。
これまで5組のライブに行ったが、
途中時計が気になってスマホを開いたのは、
このバンドが初めてだった。
そして、なぜこのライブのチケットを
購入したのか、そのいきさつを振り返りたくなった。
それもライブ中に。
売り方の事例 ② プロモーター
このライブツアーのチケットが、発売開始
されたのは前の年の12月だった。
11月下旬から、クリスマスをひかえた
12月中旬。
週末のTV番組表には、いろいろな名目で
音楽番組が多数、組み込まれていた。
その番組の内容は、というと主に
アンケート調査によるランキング形式のものが
多かった。
たとえば、
『〇〇のとき聴きたい曲』
『心にしみる曲』
『思い出の曲』
といったアンケートを
年代別でランキングし、発表していく。
そして、ランクインしたアーティストが
番組内で実際に歌う、というものだ。
どの番組にも、その人気バンドは、
ランクインしていた。
それほど “ 大 ”人気のバンドだ。
このバンドの曲には、わたしも影響を受けた
1人だった。1曲だけだが……
友人は、まともに影響を受けていた。
このバンドのこれまでのアルバムが、
すべてスマホに入っていた!
12月だけで週に3回は見た……“感覚的”には
そのぐらいだ。
こうして、テレビへの露出が増えた丁度、
そのころだった。
このバンドの
『5大ドームツアー決定、チケット先行予約受付、ニューアルバムの発売』がネット上で
発表されたのだ!
即決だった!
戦略!?
実際のところはもちろん分からないが、
11月下旬からメディアへの露出を増やし、
12月にはテレビをつければ、毎週彼らの
映像と共に曲が流れてくる、ぐらいの
感覚だった。
過去に影響を受けた曲が流れてくると、
そのときの光景と共に感情がよみがえり、
ジーンとする。
そこにタイミングを見計らったかのように
チケットアプリからお知らせが届く。
内容は『5大ドームツアー決定!チケット先行
予約受付開始!』
ポチッ!
……るよね。
戦略?だったのか?
素直に『やられたッ!』と肩を落とした。
ライブで学んだこと
・自分の売り物は何か、を理解する。
たとえば、
花屋が、花の産地や農家さんのこと、さらには
栽培方法について一生懸命、説明する。
しかし客は、その花の品質ではなく、その花を
買うことによって得られる“ 体験 ”にお金を払う。
・目的を見極める。
なぜ、花を買うのか。
部屋に飾りたい:どんな部屋?リビング?ダイニング?
お見舞いに行きたい:どんな相手?友人?職場関係?
プレゼントしたい:感謝?お祝い?
など、目的まで考えると売り方は変わってくる。
・人は感情で行動する。
・人は感情にお金を払う。
五感を刺激して、感情を動かす。
動いたところに商品を置く。
人はお金を払って満足(商品)を手に入れる。
衝動買いの出来上がり!
最後に
ライブが終わった。
会場を後にしても、仲間とライブの話で
盛り上がる、そうやって帰っていく人が
ほとんどだ。
友人とわたしも同じだった。
そして2人は、共通の感想をもっていた。それは
『2度目はない』……だ。